君は永遠にそいつらより若い
『君は永遠にそいつらより若い』津村喜久子 ちくま文庫 [2009]
あらすじ
主人公は、 22歳、卒業を間近に控える大学4年生、ホリガイ。自身が処女であることを憂鬱に感じており、「童貞の女」や「ポチョムキン」などといった言葉で代用して自称する。同じ大学の友人に囲まれながら、ぼんやりとした日々を過ごす。彼女の生活範囲は基本的に大学、バイト、下宿の三か所。
大学を中退し、実業家となった友人河北。その彼女アスミ。ゼミの飲み会でホリガイが結婚を申し込むも、その後亡くなってしまった穂峰君。バイト先の後輩で、自身の体にコンプレックスを持つヤスオカ。幼い頃、知らない大人に乱暴された過去を持つ女子学生 イノギなど。
個性豊かで、それなりに同情されるべき過去を持つ人物が多数登場する。
冒頭でホリガイは、雨の中、廃車置き場で自転車の鍵を探すシーンから始まる。現在のホリガイ視点である。そこから物語は、ホリガイの思い出したエピソードが、思い出された順番のように書かれている。最後の方に書かれるエピソードは、ホリガイの初体験。相手はイノギ。ホリガイは、自分がイノギを好きなことに気が付く。そしてエピソードパートが終わると、冒頭に戻る。ホリガイが、休学して和歌山の島に帰ったイノギに会いに行くところで小説が終わる。
感想
この小説は津村喜久子のデビュー作であり、太宰治賞を受賞している。また津村喜久子は別の小説で芥川賞も受賞している、名実ともに揃った作家である。
わたしはこの小説を読んだ最初の感想は「痛い」というものだった。女子大学生の心情や生活が、あまりにも等身大に描かれすぎている。大学生ともなるとみんなが抱えているであろう暗い面や忘れたい過去を、全面的に見せている。エッセイや日記に近い文体ということもあり、ものすごく近くで起きている話に思えるし、また実際に起きていてもおかしくない内容ばかりだ。そんな、ともすれば日常の会話に溶けそうな話を、だけども本当は大きな事件を、重くなりすぎないように、かつ詳細に書き上げている。読んでいて、それがまるで自分の経験の一部かのような気分になる。想像力が働く。光景が目に浮かぶ。
そしてわたしがこの小説を好きな理由として、主人公ホリガイに強烈な共感を抱いたからだ。ホリガイの考え方や恋愛観が、自分とよく重なる。わたしは今まで小説を読んできて、登場人物に「この人はわたしに近いな」とか「この人に憧れるな」と思ったことはあった。しかしこの小説で、初めて「この人はわたしだ」と感じた。そのため、わたしはホリガイに愛着がある。
だからわたしはこの本が好きだし、もっとたくさんの人に読まれて欲しいと思った。興味があったらぜひ。