幸福な生活
あらすじ
19個の話が入った短編集。構成としては10~20ページほどの物語があり、その各話の最後に1ページを使って、オチとなる1行が印刷されている。このラスト1行が、予想できない、それまでの物語をひっくり返すような文になっている。
例として最初に載せられた話『母の記憶』を紹介する。
父が家を出てから女手一つで育ててくれた母は、現在老人ホームに入っている。息子が会いに行くと、母親の認知症はかなり進行していた。「隣の藤原さんにお金を貸した」「息子の嫁を殺した」などとでたらめを話すようになる。
そして息子の記憶は、実家にうつる。父が家を出てすぐに、母と弟と自分の3人で庭に作った池を思い出す。そして同時に、最近池のコンクリートの割れ目から、幼い頃になくした怪獣の人形が出てきたことも思い出す。
帰り際になって母は「父は自分が殺した」と話し始める。でたらめだと思い、あしらう息子。母は「首を絞めたら苦し紛れで怪獣の人形を掴んだ」と言う。
最後の1行で、「仕方がないから、父と人形を一緒に埋めた」と書かれて終わる。
このように、最後の1行でオチがつくようになっている。他には、帰宅すると不倫相手が妻と談笑していたという話や、妻に催眠術をかけたい夫の話などがある。
感想
前期のWRDの授業で、同じクラスの人が紹介していたので読んでみた。オチを見て「なるほど、そう来たか!」となるものもあれば、「うーん、これはどうだろうか」となるものもあった。個人的には、最初の『母の記憶』が一番「やられた」感が味わえると思った。「うーん」となった理由としては、2つ目以降は「どう裏切って来るのか」というのを予測しながら読んでしまうため、期待値が上がってしまったからだと思う。
しかし、10~20ページという短い中で伏線を張って、最後の1行で回収するという構成は百田尚樹の文章能力の高さを証明している。表現もストレートなので、短編集や読みやすい本を探している方、裏切られる文章が好きな方は楽しんで読めると思う。ぜひ読んでみてください。