ねむるだけ

主に読んだ本について。ほぼ全記事ネタバレを含みます。

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て山内マリコ 幻冬舎文庫

 

八つの短編小説から成る、短編集。「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。文体は軽め。小説というよりエッセイに近い印象を受けた。

 

すべての話に共通して描かれているのは、適応能力が高くコミュニケーション能力に長けた、ちょっと不良なモテ男 椎名。

八つの短編の主人公は、全員どこか心の拠り所を探す、本当の自分はまだここにはいないと思っている、そんな寂しい人物。

結婚相談所にすがりつく親友の女子二人組。椎名に置いて行かれて、好きでもない男と寝る二十三歳。夢の中でのセックスを試みる女子高生と、その親友。などなど。

私が一番好きな話は、七つ目の「ローファー少女は体なんて売らない」だ。二十歳以上年齢が離れたハゲのおやじを愛してしまう女子高生の話。

学校が終わるとハゲおやじの車に乗ってホテルへ行き、そのままセックスをする。援助交際の時代であったため、ハゲおやじは別れ際にいつもお金を渡そうとする。しかし少女はそれを断る。

帰りの車の中で、ハゲおやじは「もう結婚を考える年齢なので、お見合いをする。だからもう会えない」という話をする。少女は自分との関係を持っていながら、「三十八歳は結婚しなくてはならない」という凡庸な考えを持つハゲおやじに呆れる。そして同時に、自分がハゲおやじを愛していたことを自覚する。

椎名はラストシーンで、傷心の少女が椎名を遠くに見つけ、「彼が抱きしめてくれたらいいのに」と考える、というタイミングで登場する。

若さゆえの後先を考えない愛情を持つ少女と、三十八歳になって現実を知り安定と安全を求める男性のすれ違いが、なんとも寂しい。

 

書経験として官能小説を読もうと思い、ネットでおすすめを検索したところこの本が出てきたので挑戦。もっとセックスシーンが多く、比喩が使われるものを期待していた。しかしそのようなシーンはほとんど出てこなかった上、淡白な描写だった。私の読みたかった雰囲気ではなかったが、初心者にも読みやすいと思った。さすが読者賞受賞。

ただ、次はやはり比喩がたくさん使われた官能小説が読みたい。おすすめがあったら教えてください。